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東工大ニュース

「はやぶさ2」ミッションによる世界初の小惑星からのガスサンプル

リュウグウからのたまて箱

公開日:2022.11.15

概要

東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の山田桂太准教授は、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星リュウグウ試料分析を進める6つのサブチームからなる「はやぶさ2初期分析チーム」のうち、「揮発性成分分析チーム」に参加をしています。

「揮発性成分分析チーム」の研究成果をまとめた論文が、アメリカの科学誌「Science Advances」に2022年10月21日付(日本時間)で掲載されましたのでお知らせします。

小惑星探査機「はやぶさ2」が地球に持ち帰ったサンプルコンテナ内のガス成分の質量分析およびガス採取を行いました。カプセル回収から30時間後に、オーストラリア現地でガス採取?分析装置(GAEA)を用いてコンテナ内のガス成分の抽出?採取?質量分析を行いました。その後、採取したガスを国内外の研究機関に配布し、ガス成分の精密な同位体分析を行いました。その結果、コンテナガスは太陽風と地球大気の混合であることが判明しました。コンテナ内のヘリウム量から計算したところ、リュウグウ試料の表面が剥離した際に遊離した太陽風がコンテナガスとして含まれている可能性が最も高いことがわかりました。近地球軌道小惑星からガス成分を気体のまま地球に持ち帰ったのは、「はやぶさ2」ミッションが世界で初めてです。

研究成果

小惑星探査機「はやぶさ2」は2020年12月6日にオーストラリア?ウーメラ地域にリエントリカプセルを着陸させました。カプセルには小惑星上で採取したリュウグウ試料を封じたサンプルコンテナが収納されています。サンプルコンテナはメタルシール機構で密封構造になっています。このサンプルコンテナ内のガス成分をカプセル地球帰還の30時間後に質量分析およびガス採取を行いました。

まず、ウーメラで回収したリエントリカプセルを現地に設置した研究施設に持ち込み、カプセルの安全化および清浄化作業を行った後、サンプルコンテナをカプセルから取り出しました。その後、日本から輸送したガス採取?分析装置(GAs Extraction and Analysis system, GAEA)の接続インターフェイスを介して真空装置とサンプルコンテナを接続しました。コンテナ底部に真空中で細孔を開け、大気に暴露することなくコンテナ内のガスをGAEAに導入しました。GAEAの真空圧力計によってコンテナ内圧は68 Paであり、地球大気の千分の一以下です。

圧力測定後、ガスの約8割を専用の金属製容器に回収しました。残りのガスをGAEAに搭載された質量分析計(Quadrupole Mass Spectrometer, QMS)に導入し、質量分析を行いました。その結果、コンテナには質量/イオン価数比(m/z)が2(水素分子)、4(ヘリウム4)、28(窒素分子あるいは一酸化炭素)、40(アルゴン40)が主要なガス成分であることがわかりました(図1)。

GAEA搭載の質量分析装置によるコンテナガスの質量分析結果(青色実線)。 横軸は質量(m)とイオン価数(z)の比(<i>m/z</i>)、縦軸は<i>m/z</i>に相当するイオンの質量分析装置での電気信号強度(任意スケール)。装置由来のガス(灰色点線)や地球大気標準ガス(赤丸)とくらべて<i>m/z</i>が4のガス(ヘリウム)が過剰に存在する。

?Okazaki et al., 2022b

図1.
GAEA搭載の質量分析装置によるコンテナガスの質量分析結果(青色実線)。 横軸は質量(m)とイオン価数(z)の比(m/z)、縦軸はm/zに相当するイオンの質量分析装置での電気信号強度(任意スケール)。装置由来のガス(灰色点線)や地球大気標準ガス(赤丸)とくらべてm/zが4のガス(ヘリウム)が過剰に存在する。

より詳細な同位体分析を行うため、金属容器に回収したガスの一部を国内外の7つの研究機関に配布しました。その結果、ヘリウムの同位体比が地球大気と比べて、質量数3のヘリウム(3He)が100倍多いことが判明しました(図2)。また、ネオンの同位体組成も地球大気とは異なっていました。コンテナ内のヘリウム、ネオン、アルゴンの元素存在度とヘリウム同位体比を検討した結果、コンテナガスは太陽風と地球帰還後にコンテナ内に混入した地球大気の混合で説明できることがわかりました(図2)。

はやぶさ2コンテナガスのヘリウムおよびネオン同位体組成(緑色)。 地球大気(Earth' atmosphere)と太陽風(Solar wind)の混合で説明できる。実線は端成分の混合線を表す。木星大気(Jupiter's atmosphere)、始原的希ガス(P1)、先太陽系起源希ガス(P3, HL)、および銀河宇宙線生成希ガス(GCR-produced)も比較のために示している。

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図2.
はやぶさ2コンテナガスのヘリウムおよびネオン同位体組成(緑色)。 地球大気(Earth' atmosphere)と太陽風(Solar wind)の混合で説明できる。実線は端成分の混合線を表す。木星大気(Jupiter's atmosphere)、始原的希ガス(P1)、先太陽系起源希ガス(P3, HL)、および銀河宇宙線生成希ガス(GCR-produced)も比較のために示している。

一方、m/z 28のガスは窒素分子であること、窒素の同位体組成は地球大気の値に近いこと、アルゴンの同位体組成も地球大気に近いことがわかりました。このことは、ヘリウムとネオン以外のガスの大部分は地球大気起源であることを示しています(図3)。また、リュウグウに含まれる含水鉱物の脱水で発生する水蒸気などは非常に高感度な分析装置を用いてもコンテナガスからは検出されませんでした。

コンテナガスの元素存在度(青実線)。測定誤差は灰色棒で示している。縦軸は36Arと地球大気組成で規格化した存在度。横軸はガス種を示す。ヘリウムは地球大気(オレンジ色点線)に比べてひと桁以上過剰である。

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図3.
コンテナガスの元素存在度(青実線)。測定誤差は灰色棒で示している。縦軸は36Arと地球大気組成で規格化した存在度。横軸はガス種を示す。ヘリウムは地球大気(オレンジ色点線)に比べてひと桁以上過剰である。

コンテナ内に存在する太陽風起源のヘリウムとネオンがどのようにしてリュウグウ試料から遊離したのかを、コンテナ中のヘリウムの量、リュウグウ試料の回収質量、サイズ分布、ヘリウムガス濃度をもとに考察しました。「リュウグウ試料がコンテナ内で等方的に割れる場合」と、「太陽風が打ち込まれている試料表面だけが選択的に剥離する場合」の2つの試料破砕様式(図4)での太陽風ヘリウムの放出率を計算しました。その結果、表面剥離であれば、総表面積のおよそ2 %が剥離すれば、コンテナ内のヘリウム量を説明できることがわかりました。等方的な破砕の場合は試料が非常に細かく破壊され細粒になっている必要がありますが、実際のサンプルキャッチャで見つかったリュウグウ試料は数ミリメートルサイズのものも存在するため、その可能性は低いといえます。また、大気圏突入時の加熱の可能性も検討しましたが、コンテナの温度は65 ℃を超えておらず、リュウグウ試料に与えた熱的影響は小さいといえます。

「はやぶさ2」は小惑星リュウグウから固体物質だけでなく、試料から遊離したガス成分も地球に持ち帰えることができたことをコンテナガスは証明しました。このような、近地球軌道天体から気体のサンプルを採取し、持ち帰ったのは、「はやぶさ2」ミッションが世界初です。サンプルコンテナはまさにリュウグウからの「たまて箱」だったといえます。

リュウグウ試料のコンテナ内での破砕の様式。(A)等方的に割れた場合、僅かな面積(黄色線)だけから太陽風が放出される。(B)粒子表面が剥離する場合、もとの粒子サイズは大きく変化しないが、太陽風を放出する面(黄色線)を効率的に生成できる。

?Okazaki et al., 2022b

図4.
リュウグウ試料のコンテナ内での破砕の様式。(A)等方的に割れた場合、僅かな面積(黄色線)だけから太陽風が放出される。(B)粒子表面が剥離する場合、もとの粒子サイズは大きく変化しないが、太陽風を放出する面(黄色線)を効率的に生成できる。

論文情報

掲載誌 :
Science Advances
論文タイトル :
First asteroid gas sample delivered by the Hayabusa2 mission: A treasure box from Ryugu
著者 :
R. Okazaki, Y.N. Miura, Y. Takano, H. Sawada, K. Sakamoto, T. Yada, K. Yamada, S. Kawagucci, Y. Matsui, K. Hashizume, A. Ishida, M.W. Broadley, B. Marty, D. Byrne, E. Füri, A. Meshik, O. Pravdivtseva, H. Busemann, M.E.I. Riebe, J. Gilmour, J. Park, K. Bajo, K. Righter, S. Sakai, S. Sekimoto, F. Kitajima, S.A. Crowther, N. Iwata, N. Shirai, M. Ebihara, R. Yokochi, K. Nishiizumi, K. Nagao, J.I. Lee, P. Clay, A. Kano, M.W. Caffee, R. Uemura, M. Inagaki, D. Krietsch, C. Maden, M. Yamamoto, L. Fawcett, T. Lawton, T. Nakamura, H. Naraoka, T. Noguchi, H. Yabuta, H. Yurimoto, Y. Tsuda, S. Watanabe, M. Abe, M. Arakawa, A. Fujii, M. Hayakawa, N. Hirata, N. Hirata, R. Honda, C. Honda, S. Hosoda, Y. Iijima, H. Ikeda, M. Ishiguro, Y. Ishihara, T. Iwata, K. Kawahara, S. Kikuchi, K. Kitazato, K. Matsumoto, M. Matsuoka, T. Michikami, Y. Mimasu, A. Miura, T. Morota, SatS.oru Nakazawa, N. Namiki, H. oda, R. Noguchi, N. Ogawa, K. Ogawa, T. Okada, C. Okamoto, G. Ono, M. Ozaki, T. Saiki, N. Sakatani, H. Senshu, Y. Shimaki, K. Shirai, S. Sugita, Y. Takei, H. Takeuchi, S. Tanaka, E. Tatsumi, F. Terui, R. Tsukizaki, K. Wada, M. Yamada, T. Yamada, Y. Yamamoto, H. Yano, Y. Yokota, K. Yoshihara, M. Yoshikawa, K. Yoshikawa, S. Furuya, K. Hatakeda, T. Hayashi, Y. Hitomi, K. Kumagai, A. Miyazaki, A. Nakato, M. Nishimura, H. Soejima, A. Iwamae, D. Yamamoto, K. Yogata, M. Yoshitake, R. Fukai, T. Usui, T. Ireland, H.C. Connolly Jr., D.S. Lauretta, S. Tachibana
DOI :

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