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大学院で学びたい方

広い視野からイノベーションを創出し、世界をよりハッピーにしたい — 松原惇高

松原惇高

松原惇高さん
Toshitaka Matsubara

株式会社資生堂 みらい開発研究所
R&D戦略部 博士(工学)

大学院進学とともに博士課程までの一貫プログラムに取り組み、NASAでの研究生活も経験した松原惇高さん。
微生物の研究から地球、そして宇宙へと領域を広げ、現在は資生堂にてアートとサイエンスの分野から新しいイノベーションの創出をめざしています。
キャリアの中で培ってきた幅広い視野と研究開発に向けるまなざしは、これから生まれるより良い世界に向けられていました。

(取材日:2021年6月24日/資生堂グローバルイノベーションセンターにて)

微生物の研究から宇宙へと興味を広げて

私が科学に興味をもったきっかけは、中学生の時に人間が生きられないような場所を好んで生息する生物の本を読み、初めて極限環境微生物について知ったときでした。

極限環境微生物とは、火山の噴火口付近の非常に高温の場所や圧力が非常に高い深海のような場所で生活している微生物のことで、その微生物がもっているタンパク質は、他の生物がもっているタンパク質とは機能が異なり特殊なんです。例えば、非常に高温のところに生息する極限環境微生物のもつタンパク質は、高温になっても卵のように固まらず、コロナウイルス感染症で有名になったPCR検査にも活用されています。このような特殊な機能や性質に「すごい!特殊機能をもっていてかっこいい!」と惹かれたんです。

このような特殊機能をもつ、未だに明らかになっていないことが多い生命体の研究に、自ら未知の世界を切り拓くワクワク感を感じ、中学生の時に理系の大学に進学しようと決めました。

松原惇高さん

大学選びでは極限環境微生物の研究ができることを最優先に考え、その研究室がある東工大に進学し、極限環境微生物の研究を行っていた中村聡先生の研究室(当時)に行くことに決めました。
学部生の頃から修士課程から博士後期課程に進んで博士号を取ることを決めていましたね。
私は当時、中村研究室で死海のような塩濃度が高い環境を好んで生きる極限環境微生物の研究を行っていました。
具体的には、その極限環境微生物が酸素濃度の高い方向に移動したり、反対に酸素濃度の低い方向に移動したりする時に、酸素を感知して移動するための信号を出すトランスデューサーと呼ばれるタンパク質について、博士後期課程を通じて研究していました。

学部4年の時には極限環境微生物のもっている機能をもっと社会で活用できないかと、日々、研究の展望について考えていました。そんなある日、今でも鮮明に覚えていますが、夜中にジョギングしている時にたまたま見上げた夜空がとても綺麗で、その時に宇宙も極限環境だと閃いたんです。それをきっかけに極限環境微生物を宇宙で活用できる可能性がないか論文を読み漁り、遂に火星に水がある可能性を示した論文を見つけます。

その論文を書いていたのはNASAの研究者でした。その時にNASAでなら、火星で極限環境微生物やその機能を利用する研究ができるのではないかと考えるようになりました。ただその時点では「博士号取得後にNASAに行けたらいいな」くらいの気持ちだったのですが、幸運にもタイミング良く様々な事が重なり、修士課程からNASAでの研究が現実味を帯びていきました。

NASAでの研究で培った俯瞰的で幅広い視点

中村研究室に所属する直前の学部3年の時には、同学年のメンバーと合成生物学の世界大会であるiGEM出場に向け活動していました。その中で、微生物のもつ遺伝子が機能する度合をシミュレーションし、実験を繰り返し、最終的に自分たちの思うように遺伝子をコントロールできた時は、驚きとともに感動したのを覚えています。その体験や経験があったため、修士1年の時に情報生命博士教育院(ACLS)という、生命科学と情報科学の複合領域で活躍する人材を育成するプログラムへの参加募集があった際はすぐに応募しようと思えました。

ACLSには、最大1年間の海外インターンシップ制度があり、想定していた時期より早いものの、NASAでの研究を本格的に考えるようになりました。これを機に、その実現に向け、NASAのどの研究室にアプローチすれば良いのか等を調査し、オンラインインタビューを受け、NASAの研究室へ行くことになりました。1年間のインターンシップは非常に早く感じ、2015年に帰国したのですが、NASAで研究指導をしてもらっていた上席研究員の方から、NASAで研究を続投しないかと誘いを受け、2015年に再度渡米し、2017年までNASAで研究を続けました。

研究所のあるシリコンバレーでの生活やNASAでの研究を通し、自分とは異なる領域の研究を行っている研究者や、スタートアップ、有名なテクノロジー会社に勤める社員の方など、多種多様なバックグラウンドをもつ方々と交流する機会が多く、研究方針のみならず、考え方など、多くのインスピレーションを受けましたね。その体験や経験、学びが今でも新たなアイディアを創出する際などに非常に役立っています。

マサチューセッツ工科大学で毎年11月ごろ開催される合成生物学の世界規模の大会。

世界をターゲットにアート×サイエンスの研究を追求

松原惇高さん

博士後期課程修了後は、アメリカで参加していたボストンキャリアフォーラムでのインタビューを経て、資生堂に入社することになりました。資生堂を選んだ一つの理由は、NASAでの研究やシリコンバレーでの生活を通して、アート×サイエンスに関心をもつとともに、今後も極めて重要になると感じたためです。

例えば化粧品は、化学や生命科学だけでなく、手ざわり等の感性やパッケージデザインといった、多様な領域が製品開発に貢献しています。このように様々な領域を組み合わせることで、今までになかった新しい価値を創れるのではないか。アートとサイエンスを融合させることで、イノベーションを起こし、より多くの人の幸せに貢献できるモノやコトづくりができるのではないか。そう感じたんです。

資生堂に入社当初は、グローバルプレステージブランドという、国内だけでなく、海外にも販売されている高価格帯の化粧品の研究開発に携わり、特許の出願も行いました。その後、研究成果の特許の出願や権利化に向けた仕事や他社の知財分析等を行う知財部に所属し、現在は、一人ひとりの健康美を実現するための研究戦略立案や策定、そして、その実現に向けた社外からの技術獲得等の業務に携わっています。

これまでに何度か部署を移っていますが、一貫しているのは研究開発に携わっているということですね。社内の多領域にわたる研究内容を理解できるのは、これまでのキャリアで様々な分野の学生や研究者とコミュニケーションし、論理的にそれぞれの研究を理解してきたと同時に、俯瞰的な視点で多様な研究の接点を考える力を培ってきた賜物だと感じています。

私が今後の人生を懸けて成し遂げたいことは、世界中のより多くの人をよりハッピーにするということ。生活を豊かにするプロダクトを開発したり、ビジネスモデルをつくったりと、方法は一つではなく、たくさんあると思います。世界を舞台に、イノベーション創出のコアな人材になれるよう、自分が持っている能力やネットワークを生かしたいと思っています。

松原さんのキャリアパス

  • 2012

    大学院生命理工学研究科

    東京工業大学 大学院生命理工学研究科
    生物プロセス専攻 修士課程 入学
    情報生命博士教育院(ACLS、博士課程教育リーディングプログラム)参加
    大学院博士一貫教育コース編入
  • 2014
    修士課程 修了
    ACLS海外インターンシップ制度で渡米しNASAへ
    カリフォルニア大学サンタクルーズ校 ジュニアスペシャリスト
  • 2015


    NASAの上席研究員に研究指導委託
  • 2017


    博士後期課程、ACLS、
    大学院博士一貫教育コース修了
    株式会社資生堂 入社

松原惇高

松原惇高
まつはら としたか

Profile

2012年、東京工業大学生命理工学部生命工学科を卒業。情報生命博士教育院(ACLS、博士課程教育リーディングプログラム)に参加、大学院博士一貫教育コース編入。2014年、東京工業大学大学院生命理工学研究科生物プロセス専攻修士課程修了。ACLS海外インターンシップ制度を利用して1年間渡米、NASAへ。2017年、東京工業大学大学院生命理工学研究科生物プロセス専攻博士後期課程、ACLS、大学院博士一貫教育コース修了。アメリカから帰国し株式会社資生堂に入社、現在に至る。

Tech Tech ~テクテク~

本インタビューは東京工業大学のリアルを伝える情報誌「Tech Tech ~テクテク~ 39号(2021年9月)」に掲載されています。広報誌ページから過去に発行されたTech Techをご覧いただけます。

(2021年6月24日取材)